診療部長対談 “ストロークチーム発足 脳卒中に対する24時間365日体制”

宮嵜章宏(脳神経外科部長) × 山口啓二(神経内科部長)

2016年8月より、一宮西病院ではストローク脳卒中)チームを立ち上げました。西尾張エリアは人口規模の割に脳卒中診療がまだまだ不足している・・・という思いから発足したこの「ストロークチーム」について、脳神経外科・宮嵜部長と、神経内科・山口部長にお話を聞きました。

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ストローク脳卒中)チームの体制と特長

(山口)脳卒中チームといえば、脳神経外科医だけで構成されている病院がほとんどですが、当チームは、あえて脳神経外科神経内科の両科で構成しています。脳神経外科は手術をするが、神経内科は手術をしません。例えば、くも膜下出血とかは手術が必要となる疾患ですが、脳梗塞脳神経外科でないと診療できないかというと、神経内科でも診療できるのです。それは手術にならないケースが少なくないからです。確かに脳神経外科医はあらゆる病変を診療できますが、実は手術を必要としない脳梗塞は、データ上4分の3程度もあります。また、脳神経外科は手術のスキルを磨くために、かなりのストレスと体力を強いられます。医療上の安全からも見ても、手術の必要がないものは内科医が診療して、外科医は高度な治療に専念した方が機能的だと思います。術前術後の管理においても、脳神経外科は緊急オペなどで、病棟をこまめに回ることが難しい時もあります。そういう面では、手術のない神経内科が、こまめに病棟の患者さんをチェックすることで、病状の変化に早期に気づき、悪化させないこともできます。こういった経緯で、神経内科脳卒中チームに組み込まれているわけです。

(宮嵜)神経内科がチームに入ることで、診断能力は格段にパワーアップしました。例えば、脳卒中といってもすべてが典型的な症状なわけではないので、最初に「脳卒中」と診断できるだけの知識とスキルが必要です。その点、神経内科医はいわゆる一般的な診察はもちろん、神経医学的チェック、画像の見方、エコーなどのスキルが高いです。さらには、再発予防などは神経内科医がプロフェッショナルです。また当チームでは、神経内科は外科的治療になったら「もうおまかせ」という風になるのではなくて、一緒にその治療に入ります。これによる最大のメリットは、どういう患者さんが治療適応になっているか、どういう予後なるかということを一緒に肌で感じることができるのです。それによって、内科医と外科医でディスカッションし、同じベクトルでより良い医療の提供を目指すことができます。外科的治療と内科的治療、そのどちらがメインの治療というわけではなくて、どちらも補完しあってはじめて完全な治療だと考えています。

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24時間365日体制について

(宮嵜)脳神経外科神経内科の医師を十分に確保したことにより、脳卒中に対して24時間365日迅速な対応を実現できるようになりました。でも実は、医師だけ揃っていても24時間365日、脳卒中を受入れることはできません。例えば、MRI検査ひとつとっても24時間365日撮影できない病院はまだまだあるはずです。それは放射線技師さんの人数が足りないなど理由は様々です。もちろん当院ではMRIもCTも24時間365日対応しています。そういう意味では、脳卒中チームを支えるあらゆるスタッフが十分に確保できているといえます。また当院には、開頭手術に加え、近年注目されている「脳血管内治療」を提供できる医師が複数名揃っています。それに加えて神経内科の全面的バックアップにより、予定されていた手術と平行しつつ、緊急の手術や脳血管内治療にも随時対応できるようになったのも、24時間365日体制を実現できた大きな理由です。

最新治療の血管内治療「血栓回収療法」

(宮嵜)今一番注目されている脳血管内治療法として「血栓回収治療法」があります。世界的な論文でこの治療法の有効性がはっきりと示されています。既にアメリカでは「グレードA」といって第一選択しなければならない治療としてガイドラインに定められています。当院の脳神経外科も、血管内治療の診療体制を拡充しています。特に脳梗塞では、今までなら手足の麻痺が残っていたような症例も、「血栓回収療法」で、後遺症なく歩いて帰るというケースも増えてきました。ただ、「血栓回収療法」を十分に提供できている地域はまだまだ少ないのが現状です。当院では、血管内治療ができる専門医が3名在籍しています。血管内治療医が複数人いる病院は全国にもそれ程多くないと思います。将来的には他院ともっともっと連携を図り、地域全体を包括する脳血管治療の提供ができたらいいですね。

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脳卒中に対し迅速な対応を実現するには

(山口)この地域は脳卒中の診療体制は整っている方だとは思いますが、脳卒中の専門家がファーストタッチできてないケースは多いのではないかと思います。当院でも、脳卒中チームができるまでは、特に通常勤務帯以外では非専門医が救急外来で初療を行う場合が多く、非典型例では脳卒中に気づくのが難しいケースが時にありました。また、診断できたとしても診断までのスピードは確実に落ちますし、専門医への連絡はCTやMRIで確認が終わってからでしたので、どうしても治療の開始は遅れました。脳卒中は、治療が遅れれば遅れるほど、患者さんの脳細胞がどんどん失われ、tPAや血栓回収療法のチャンスが減るばかりでなく、治療成績も落ちてしまいます。だから脳卒中の診療をするためには、24時間365日専門家が院内に常駐し、脳卒中救急のファーストタッチを行う必要があります。また、万一、非専門医が診察した場合でも、いつでも気楽にコンサルトしてもらえるよう人間関係の構築に努め、即座にサポートできる体制でないと十分とはいえません。

(宮嵜)そうですね。我々脳卒中の専門家が常時携帯しているPHSに、救急隊から直接連絡が入る体制を整えたのは大きいですね。そうすることで、救急隊から連絡を受けた時点で、これは脳梗塞ではないかと思われる症例が増えてきました。そうなると、救急車が到着する前にある程度予測をして行動できます。例えばこういうケースがありました。救急隊から「60代で手足の麻痺があり」と神経内科医が電話を受けた時点で、「血栓回収療法」になるかもしれないと、MRI検査ができるように準備、患者さんが運ばれて迅速にMRIを撮影すると、予想どおり血管が詰まっている、すぐに血管内治療の専門医を呼んで、MRIの画像を再度確認し脳梗塞が確定、事前にカテーテル室にも連絡しているので、カテーテルをする準備完了、あとは血の固まりを溶かすお薬を投与しながら、神経内科医は家族に説明に入り、脳神経外科医はカテーテル室でカテーテル治療に専念します。ファーストタッチ脳卒中チームがPHSをとることによって、常に一歩先へ先へと治療を進めていくことができます。

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神経難病の治療用で導入したロボットスーツ・HALの可能性

(山口)脳卒中はひとたび障害が完成してしまうと、治療で元に戻すことが難しいのが現状です。脳卒中になった方に対しては、障害が完成する前の急性期治療に力を入れておりますが、残念ながら障害が完成した患者さんに対しては、再発や進行を防ぐための予防や全身管理に全力を尽くしてきました。そして少しでも機能を回復させるため、入院直後から365日体制でリハビリを行ってきましたが、ロボットスーツ(HAL)を導入したことで、従来のリハビリにはない回復効果が期待できる治療を提供できる可能性がでてきました。神経難病の患者さんにHAL治療を用いたところ歩行の改善が証明され、平成28年4月から8つの神経難病の歩行機能の改善に、保険適応が認められました。我々の施設では平成28年10月から医療用HALを導入しましたが、実際に神経難病の患者さんに試したところ、明らかな歩行機能の改善がみられ、HALの有効性を実感しました。脳卒中に対してのHAL治療は現時点では保険適用はありませんが、脳卒中後遺症に有効性があるという報告もあり、実際に我々の症例でも試してみたところ、やはり歩行障害の回復に有用であるという感触が得られました。実は医療用HALの使用には、資格が認められた医師の判断が条件ですが、当院では私をはじめ資格を有する医師が数名おります。そしてHAL治療の資格がある医師が使用を許可すれば、保険適用外の症例であっても、保険算定ができない(患者さんに請求できない)だけで、HALを使用することは可能なのです。私は、HALを脳卒中の患者さんに用いれば、これまでのリハビリにはない機能回復効果が得られる可能性があると考えております。当院では2016年11月からHALが歩行障害のみられる急性期脳卒中患者さんに安全に使用できるかを検証する研究を、UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)に登録したうえで開始しております。安全性が確認できたら、通常のリハビリと比較して本当にHAL治療が有効であるかを、急性期、亜急性期、回復期それぞれのステージで検証したいと考えております。もしそれが有効であると科学的に証明できれば、要介護度の軽減や入院期間の短縮にも繋がるかも知れません。要介護の最大の原因は脳卒中です。脳卒中を診療する医師として2025年問題に対する責任を感じており、その対策にもなりうる治療として、早急に検証しなければという思いがありました。また日本発の医療技術として、世界に輸出できれば国力のアップにも繋げていけるのではないかと期待を寄せています。

(宮嵜)当法人の特徴として、急性期病院の他、地域の回復期リハビリ病院としても役割を果たしています。関連施設も含めてリハビリのセラピストが総勢で約300名います。ここまでリハビリスタッフが多い法人は全国でも例がないと思います。それを生かし、治療当日の超急性期、翌日以降の急性期、その後の回復期、在宅まで円滑にリハビリテーションを行える体制をとっています。

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最後にメッセージ

(宮嵜・山口)脳血管内治療やロボットスーツなど、先進的な治療をいち早く導入したり、24時間365日脳卒中に対し迅速な対応を実現するなど、当院のスタッフは「時を問わず、労をいとわず」ますます熱意を持って治療に臨んでいきます。これからもチーム医療で、地域の脳卒中医療を担っていきたいと思っております。