ラジオ番組出演 “神経難病・脳卒中患者さんの自立、そして介護問題までをも見据えたHALの可能性”

安蒜豊三(東海ラジオ・報道アナウンス部長)× 山口啓二(一宮西病院・神経内科部長)

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患者さんの意思に基づき運動機能を回復させる治療ロボ「HAL」

(安蒜)筋肉が萎縮する筋ジストロフィや、アイスバケツチャレンジで話題になったALSなどの、神経難病の患者さんの歩行を助けるための装着型ロボットスーツ「HAL(ハル)」。この医療用ロボットを、東海地区で初めて導入したのが、一宮西病院です。今日は一宮西病院で神経内科の部長を務める、山口啓二先生にお話を伺います。山口先生、よろしくお願いします。

(山口)よろしくお願いします。

(安蒜)さてこの医療用ロボットのHALというのは、簡単にいうとどういうものなのですか?

(山口)HALは、人の自立動作を支援する装着型ロボットで、装着した患者さんの「動こうとする意思」を、体につけたいくつかのセンサーで感知しながら即座に解析して、装着した患者さんの動作を適切にアシストしてくれるロボットです。ロボットと申しましても操縦する必要はなく、まさに患者さんと一体となって患者さんの動作を支援してくれる、画期的なロボットなのです。このように説明しますと「介護用ロボット」というイメージを持たれるかもしれませんが、医療用のHALはあくまで病院での治療に用いるもので、体の動きに支障がある患者さんの運動機能を回復させる目的で使用します。人の運動機能を回復させるには、患者さん自らの「動かそう」という意思に基づく動作を、繰り返し反復する必要があるといわれております。HALは、患者さんの意思に基づく動作を正しくアシストしてくれるので、訓練を続けることで「動けた」という成功感覚を、患者さんの脳に繰り返しフィードバックできます。このため、従来のリハビリにはない、機能回復効果が期待されております。

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(安蒜)なるほど。HALは装着した患者さんの「動こうとする意思」に基づいて、患者さんの動作を助けてくれるのですね!筋力が弱っていても、患者さんの意図した動きを正しく行えるようアシストしてくれるのがHAL、ということですね! 

(山口)その通りです。HALには「福祉用」もありますが、今回当院で導入した「HAL医療用下肢タイプ」は、ロボットスーツを両足に装着して、病院での歩行訓練に使用するものです。この医療用のHALは全国9ヶ所の病院で行われた治験で、これまで改善が難しいとされてきた難病患者さんの歩行障害を改善する効果が、科学的に証明されております。そしてこの結果を踏まえ、日本「発」の全く新しい医療技術として厚生労働省が医療機器として承認し、今年の4月から筋ジストロフィ、ALSなど、8つの神経難病に限って保険適用が認められました。

(安蒜)神経難病での改善が確認されたということは、例えば今までは車椅子での生活を余儀なくされていたかもしれない患者さんも、自分の足にHALを装着した治療を受けることで、病気の進行を遅らせることができるかもしれない…ということですね?

(山口)そうですね。当院でも、10月からようやく治療を開始したばかりですので、実際にHALで治療した患者さんはまだ数人にすぎませんが、HALの適用がある神経難病患者さんに入院していただき、2週間にわたってHAL治療を行いましたところ、“一定の時間で歩ける距離”が、3割から5割程度のびるなど、歩行機能の改善が認められました。まだ始めたばかりですので、はたして重い障害のある患者さんにどの程度有効なのか、また病気全体の進行をどこまで遅らせるかなど不明な点もありますが、手ごたえを強く感じております。

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患者さんの潜在能力を引き出し、大きな希望も与えてくれる

(安蒜)こちらに10月7日付の中日新聞尾張版がありますが、ここにも実際にHALの治療を受けた40代男性の方の声が書かれています。一部読み上げますと…「どんどん足が動いてくれた」「取り外した後、ジャンプできそうなほど体が軽くなった」と言うことですね。HALを導入されて2カ月ですが、治療の効果は期待通りということですね?

(山口)この方は当院で初めてHAL治療を行った患者さんでしたので、私たちも始める前は、本当に効果があるのか半信半疑でしたが、実際に行ってみますと、単に歩く能力が改善したという事実以上に、治療前には沈んでいた表情が、治療を進めるにしたがって目を輝かせるようになったのが、とても印象的でした。患者さん自身、“とりあえず試してみよう”という気持ちだったと思うのですが、最後は自信に満ちた表情で退院されました。今後も定期的に治療を施すことで、どこまで病気の進行を遅らせることができるか、見守ってゆきたいと思っております。これまでの治療経験を通じて、私はHAL治療というのは、患者さんの潜在能力を引き出し、患者さんに大きな希望と、そして、病気と立ち向かう勇気を与えてくれる、そのような治療法なのだと実感しております。 

(安蒜)HALは神経難病の患者さんの歩行機能を改善させるだけでなく、大きな希望を与えてくれる、画期的な治療方法ですね!では、HALのこれからの可能性、展望をお聞かせいただけますか?

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将来の介護問題を見据え脳卒中への臨床研究も

(山口)現時点では、神経難病の患者さんだけが保険の対象になっておりますが、HALは神経難病以外にも、広く「脳」・「神経」系の疾患による運動障害に対して有効性が期待されております。現在いくつかの大学を中心に、HALの適応拡大に向けた臨床研究が始まっていますが、中でも私が最も重要だと考えるのは「脳卒中」です。というのも、今後わが国では少子化が進む中で後期高齢者が激増し、医療や年金だけではなく、介護の問題も深刻化してゆきます。このままでは日本全体がすさんで立ち行かなくなってしまうのではないかという、強い危機感を抱いているからです。脳卒中は介護の最大の原因です。HAL治療で一人でも多くの脳卒中患者さんを回復させ、そして自立した生活を送れるようにできれば、患者さんご本人にとっても、またこの国にとっても、大きな救いとなるはずです。一宮西病院では、HAL治療が本当に脳卒中患者さんの機能回復に役立つのかを科学的に確かめるため、神経難病の患者さんへの治療と並行する形で、脳卒中で入院された患者さんを対象としたHAL治療の臨床研究を始めたところです。

(安蒜)介護問題の大きな要因が脳卒中であるとするなら、HALの治療が脳卒中患者にも保険適用となれば、日本の介護難民を劇的に減らすことができるというお考えですね!これは決して夢物語ではなく、もう臨床研究も始まっているのであれば、脳卒中の後遺症に苦しむ患者さんへの活用も大きく期待できるということですね!今日は、今年の10月に東海地区で初めて、足の不自由な人や脚力が衰えた人の歩行を助ける治療ロボット「HAL」を導入した一宮西病院から、神経内科部長の山口啓二先生にお話を伺いました。山口先生、お忙しい中ありがとうございました。

(山口)どうもありがとうございました。